九兵衛は苦悩していた。
数日前に、下駄屋で目撃した光景が忘れられなかったのだ。
あれは、八っつぁんの醤油屋の三番目の娘、やんちゃな娘のはずなのに、下駄屋で下駄を試すその足が、白くてふくよかで忘れられないのだ。
ああ、あの足を舐めまわしてぇ
娘の足のことを考えると、股間がカチカチになってしまい、ただ夢想にはげむしかなかった。
九兵衛は日がなそんなことばかり繰り返し、剣の稽古もおろそかになりがちだった。
「お父上様、何でございましょうか。」
あまりに怠惰になってしまった九兵衛は、父に呼び出されていた。
「剣の稽古をなまけているそうじゃな」
「父上・・・私は・・・・武士ではなく、下駄を作りたいのだ。」
「九兵衛・・・・。」
その日から、下駄職人としての九兵衛の毎日が始まった。九番目の子供であるから、武士を継がないで職人になってもよいと父の愛情がそうさせたのであった。
「いつか下駄をつくって・・・・・あの娘の足を・・・・。」
九兵衛はその思いが強く、上達も早かった。
数年後、すっかり大人になった九兵衛が、小さな下駄屋を町に開いた。最初は屋根もない露店だった。
九兵衛は下駄を作りながら待ちつづけた。娘を。
九兵衛の下駄はたいへんつくりがよかったため、どんどん店は大きくなっていった。
醤油屋にまでそのうわさが広がるのはあっという間だった。
そしてある日、娘がやってきたのだった。
「へい、らっしゃい。」
九兵衛が顔を上げると、そこにいたのは娘だった。
「あたいに似合った下駄をちょうだい。」
目の前に差し出された、娘の白い足。
そうだ、これがずっと夢見ていたあの足だ・・・・・九兵衛はおそるおそるその足にそっと触れ、唇を押し当てた。
「九さん・・・・どうしたっていうんだい・・・・アッ。」
娘の体が波のようにうねる。九兵衛は娘の足を舐めつくし、そして太股へと手を這わせた。
「私はずっと・・・・あなたのことを・・・・・。」
「九さん・・・立派な職人になって・・・・。」
娘のやわらかな手が、九兵衛の尻をぐっとつかんだ。
そして、九兵衛と娘は結ばれたのであった。
九兵衛の店はそれからも拡大を続けた。天才下駄職人としての彼の名は、日本全国をかけまわったのだった。
そしてはるか数百年後の現在、展開しつづけた九兵衛の店は、世界中の誰もが知っている、世界のどこにでもあるあの靴屋となっているのだ。
人に、歴史あり。靴屋に、歴史あり。
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